矢貫隆
2009年01月20日
★刑場に消ゆ
もしも、白洲次郎、正子展を見に行った時に書店に寄らなければ、友人が興味を持った本の後ろの棚に入っていたこの本に指が伸びなければ出会わなかった本。開いてみて、不思議な縁を感じたのは、私が去年、一昨年と2回訪問し、ファンになってしまった近江八幡が重要な舞台になっていた事。しかも、ヴォーリスの開いた施設が舞台である。
きっかけは著者が盲導犬の育成にかけて魔法使いのようだと絶賛する多和田悟(クィールで有名)との縁で、図書館の蔵書である大部の点訳本を納めた主である本書の主人公、二宮邦彦の存在を知った事。多和田さん自身が二宮邦彦の事をもっと知りたいと願ったようで、取材が進んでいく。
端的に言ってしまえば、二宮は死刑囚であり、死刑判決が下りた後、贖罪の意識を持ちつつ、膨大な点訳を成し遂げたという事。周囲の援助者や献本を受ける近江八幡の援助者に看守に至るまで、誰もが、刑確定後からずっと執行されず、精魂こめて点訳を行う彼が本当に死刑になる日が来るとは思わず、よって減刑嘆願運動を起こすという事も考えられぬまま、ある日唐突に死刑宣告を受けて、彼は刑場に消えるのだが、その最後を看取った人の証言もある。実に立派な最期だったようである。
二宮が何度も上告をしたのは、減刑してもらおうというよりは、より多く点訳をして行きたいからだったのではないかと言う著者だが、一方で、巻末あとがきにあるような不思議な話もある。
同囚だった人の証言にもあるように、とてもそんな犯罪を犯すように思えなかった強殺犯二宮が出来上がった背景には、原爆投下による体調不良による職業的挫折があった事も見逃すことは出来ない(だからと言って、彼の犯した罪が許されるわけではないが)。また、その時代の同囚の中には後に冤罪が認められた門田氏のような人もいる一方で、恐らく冤罪であろうに死刑執行されてしまった人物もおり、捜査や司法のあり方を考えさせられもした。
kaikoizumi2005 at 17:00|Permalink│Comments(0)│