随筆

2013年07月12日

□ちょっとそこまでひとり旅 だれかと旅

本が好き!の献本です。

実写化されたマンガ「すーちゃん」の作者による旅行記。

実はすーちゃんを知るより先に著者の、同じく旅エッセイの「47都道府県 女ひとりで行ってみよう」を読み、そのゆるさ具合がいいなぁと思っていました。頑張って、あれもこれも網羅しました、ではなくて、場所によっては、あれれ〜と言う程あっさり。ガイドブックとは目のつけどころが違い、ぶっちゃけ、観光にはほとんど役に立ちそうも無いのが良いのです(笑)。

次いで、「すーちゃん」を読んで、平凡な毎日の小さな出来事による喜怒哀楽の描き方が、うねりの大きな劇画調ではなく、手に汗握ったり、肩に力を入れずに読めるマンガな姿勢も気に入りました(劇画が嫌いなのではなく、こちらにキャパシティが無い時には疲れるの意味です)。

高度経済成長期もあくせくした競争が繰り広げられていましたが、競争の先には希望があると思えた。でも、最近世の中、平凡で突出したものが無い庶民があくせくしても、結局誰かに踊らされているだけ感が満ち満ちています。影響力があると言われている人たちの多くが口にするのが、どんなに砂糖衣をかけていても、本質は弱肉強食、と言う風潮の中、あくせくガツガツせざるを得ない庶民は、せめて紙の上だけでも、ゆるくて、普通、とか一般などなどと呼ばれる枷を取り外したい。

そんな心境には、少し著者の分身が入っているらしいすーちゃんや、他愛ない事に感動・感心し、教科書的な事柄はスルーしてしまう傾向の強い「あんまり役に立たない観光本」だけど「気負わず、偶然の出会いを楽しむ旅をする楽しさが伝わる本」である本書はしっくり来ます。続きを読む

kaikoizumi2005 at 22:30|PermalinkComments(0)

2012年09月02日

□お友だちからお願いします

人気作家にして、私が好きな三浦しをんさんのエッセイ集、本が好き!の献本です。

三浦さんの日常を語るエッセイで出典は新聞や雑誌などいろいろ。概してゆる〜い肩の凝らない、小説の文体とは別人状態の読み物です。

三浦さん、自分の事は過小申告と言うか謙遜していると言うか、出不精のデブ症、色っぽい話が全然無くて………と言う感じに書いておられますが、そこんところが、三浦さんの自己申告と正真正銘同じ理由でベタベタな恋愛モノが苦手な私には嬉しいと言うか、マッチいたします(笑)。

コミカルな文体の中に見えて来るのは家族の愛情に恵まれている方なんだなと言う事と、事物に対する見方が優しいと言うか柔軟な方らしいと言う事です。

特に幼い日に関東大震災を経験していると言う最近亡くなられたおばあ様については、その人となりが伝わって来ます。

おばあ様のエピソードで一番気に入ったのは、彼女が自分のおっぱいをおしなびさんと呼んでいたと言う下り。

しなびる位だから元巨乳であろうし、自称デブ症はそこんところが遺伝してるにちげえねぇ……なんていう下世話な想像はさておき、おしなびさんとはちゃんと何かを咲かせた後と言うほのかな誇りも感じられ、なかなかのセンスです。きっとこのセンスが三浦さんの表現力の根っこにあるんだろうなぁと感心しました。

多岐に渡るエッセイの為、箱根に取材、尾鷲に取材、文楽を………と書いてあれば、出不精なんてウソじゃんとツッコミつつも、あの作品、この作品と面白さに一気読みした作品が浮かんで来ます。

映画化もされた「まほろ駅前多田便利軒」の舞台が彼女が住んでいる東京都町田市がモデルなのは有名ですが、変貌著しく、個人営業だった店がチェーン店になってしまったりという、彼女にとってはさみしい事、困った事すら変化として受け入れるし、おしゃれな街にあってはならない美観を損ねる邪魔者扱いされることしばしばの電柱と電線に向けるまなざしも優しいです。

このエッセイを読んでいて、自分がどうして三浦しをんさんの作品が好きなのか、ストーリー展開以外の部分で何が自分の心に触れるのかが分かりました。

………という訳で三浦しをんさんのファンには必読書でしょう。


kaikoizumi2005 at 23:47|PermalinkComments(2)

2012年07月03日

□傷のあるリンゴ

 本が好き!の献本です。

 若い頃、文化人としてよくお名前を耳目にした外山滋比古さん。1923年のお生まれですから、アラナイ(90歳内外)でいらっしゃいますが、それなのに切れ味の良いエッセイをお書きになる・・・というよりは、それだからこそお書きになるのだろうかと思います。

 冒頭からいきなり「ヒマなほど忙しい」という意表をつくタイトルでエッセイ集は始まります。一般的に言われている常識と相対する考え方を述べておられ、他のタイトルも面白いものが多いです。「ひとりでは多すぎる」、「始めよければあとがこわい」、「親があっても子は育つ」「不幸は幸運のもと」などなど。

 この本のタイトル「傷のあるリンゴ」という章も最初は、青森の朝市でなかなか売れない傷のあるリンゴを著者が売り手のおばあさんに同情したのと、どこかから傷のあるリンゴがうまいと聞いていたので買ったというエピソードから始まりますが、結びの言葉が「われわれは不幸、失敗の足りないことをこそおそれるべきである。傷ついてうまくなったリンゴの教訓は貴重である」とあり、幸福、幸運を過剰に求め、不幸を忌避する傾向に一発お見舞いしています。


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kaikoizumi2005 at 16:29|PermalinkComments(0)

2011年10月16日

★もぎりよ今夜もありがとう



バイプレイヤーとして強烈な存在感を放つ女優の片桐はいりさんの映画にまつわるエッセイ。

そもそも、この本の存在を知ったのは行きつけの今時珍しい非シネコン、お気に入りのこじんまりした映画館で、でしたが、本が好き!の書評を拝読し、ますます読みたくなりました。

タイトルからして昭和の名歌謡曲「夜霧よ今夜もありがとう」のもぎり、もといもじりなのですが、一つ一つの章毎に、学生時代のアルバイトが映画館のもぎりだったと言う映画大好きな人ならではの映画のタイトルから取ったものばかり。章末にはいつ公開され監督は誰だったかなどが小さな文字で示され、観たくなってしまうしくみになっています。

とにかく、本当に映画が好きな方なんだな〜と思います。続きを読む

kaikoizumi2005 at 15:49|PermalinkComments(0)

2011年10月02日

★死ぬ気まんまん



一度見たら忘れらんない個性的な画の絵本、100万回生きたねこの作者にして、近年はエッセイストとしても活躍し、昨年亡くなった佐野洋子さんのエッセイと対談による最後の本。

冒頭のエッセイは著者の身辺に現れるウソか本当か分からないような茫洋とした古道具屋や、みんなに引かれる程のちゃっかりした友人、従姉妹などに、今は肥えて見る影もないと言われることも多いながら、彼女はそんな彼も好きというかつてのアイドルや、自分の生い立ちまで、時間軸はあちこちに飛び、脈絡がなさそうでいて、彼女の生きて来た姿勢、好きなモノ、嫌いなモノが描かれていて、100万回生きたねこの威風堂々とした姿と重なってしまいます。続きを読む

kaikoizumi2005 at 10:02|PermalinkComments(0)

2011年08月21日

★旅先でビール

評論家の川本三郎さんが随所で書かれているエッセイをさっくりとテーマにまとめた集大成。

ご近所の緑は杉並生まれで杉並在住と言う、江戸っ子ならぬ山の手っ子の著者が日帰りで足を伸ばせる場所にちなんだ内容。

日本の町を歩く、は旅に関するエッセイ。

駅物語は先般読んだ「絶滅危惧駅舎」とはかぶらないけれど、中には風前の灯火かもと言う小さな駅舎についても書かれていて、小さな鄙びた駅舎のファンが多いことを感じさせられます。

旅の友は映画と文学は評論家でもある著者ならではの知識をいやみ無くちりばめていて、ある時代以前の日本映画や文学作品にはとんと疎い私には新鮮でした。

居酒屋の片隅は、自由業ならではと断りを入れた上でしばしば昼から一杯を楽しむ著者のお酒を飲める店にまつわるエピソード。

必ずしもタイトルとドンピシャリに合致しない内容のエッセイも有りますが、著者の穏やかな人柄伝わって来る分かりやすく、品格のある文章でファンが多いのも頷けます。


しかし、しばしば、自由業の良さを説かれていますが、おそらくは先様の出すお題に絡め、一定の質を保ったエッセイを締切に間に合うように書くのは大変な事だろうなぁ、と、幸か不幸か最近はトンと当選しなくなったので献本書評の締切にうろたえなくて済む私は思うのです。


kaikoizumi2005 at 10:31|PermalinkComments(0)

2011年06月25日

★お徳用 愛子の詰め合わせ

亡くなった祖母は佐藤愛子は嫌いと言っていた。理由を聞くと「きれいな顔しているのに汚い事を書くから」と言う一方で、北海道暮らしの彼女の霊的体験話を面白がっていた。

この本は愛子さんの色々なエッセイをてんこ盛りにしたもので、汚い事を書くのは何故かがわかったし、老いを感じつつ、憂国の情でだらしない世相にいちゃもんをつける切れ味はまだまだ健在です。

作家の洞察力はさすがと思ったのは2008年7月号、文藝春秋スペシャルに掲載のエッセイの文末にあった「いつか必ずくるだろうこの国の苦難絶望の日に、今は日本人の中に眠っている強い精神力が蘇ることを念じるばかりである」と言う一文。

こう結ぶからには、今時の日本人の我慢のなさを嘆いているのであるが、恐らくは彼女も思ってもみなかった程早くにその時が来てしまった。

そして、婦人公論の2009年10月22日号に掲載されたエッセイの中ほどには「欲望は際限なくふくらむことを忘れて身を委せていると、行きつく所に何があるのか?」と言う下りも、快適な生活を求め、電気に依存し過ぎた結果がもたらした現実に重なっていて、極めて残念な事態ながら、慧眼に恐れ入っている。


年を経て、衰えもあるだろうけれど、年を重ねたからこそ言える言葉もあると納得した。

姨捨伝説ではないが、高齢者の叡知、侮りがたし。


kaikoizumi2005 at 23:09|PermalinkComments(0)

2011年05月10日

★つくも神さん、お茶ください



 しゃばけシリーズなどで活躍の畠中恵さんのエッセイ。

 しゃばけでお馴染みの柴田ゆうさんのイラストも添えられています。

 様々な媒体から取ってきたエッセイ集なので、そういうのが好きな方はハマると思いますが、私は1冊の本の文体があれこれだと混乱するほうなので、ちょっと苦しくて読了に時間が掛かりました。

 畠中さんの大ファンだったら、とても楽しいと思います。

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kaikoizumi2005 at 18:00|PermalinkComments(0)

2011年05月05日

★言葉のなかに風景が立ち上がる



何冊か本を読んでいる川本三郎さんが、現代作家の作品に現れる風景に焦点を当てた文芸評論集。

私自身は読書をする時にストーリーを重視しがちなので、風景に焦点を当てて読むと言う視点は新鮮でも有り、また人間関係の絡みなど、ゴチャゴチャのモニャモニャばかりに気を取られる自分の視野の狭さを著者にやんわりとたしなめられたようにも思えました。

風景を取り上げる事で、作品の魅力が増し、食わず嫌いもあり、読んだことがない作品が殆どな上に、恥ずかしながら初めて知ったお名前も幾つか有りましたが、読んでみたい、接してみたいと言う気持ちになりました。

先ずは、日ごろ足繁く通っている部類の黄金町界隈を描いた柳美里さんのゴールドラッシュ(もっとも私が足繁く通えるようになったのは、特飲街と呼ばれていた線路沿いの建物を「浄化」してからで、浄化運動に携わる人たちにはゴールドラッシュに描かれている世界は無かった事にしたいものかも知れません)から読んでみましょうかね〜。


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kaikoizumi2005 at 18:30|PermalinkComments(0)

2011年05月02日

★千年の色



京都の染師、染司よしおか五代目の著者、生家を継ぐまで大学卒業後、編集、広告の仕事をしていたと言う経歴の方です。

多分回り道をした故に、職人として生きる事にした著者の世界は広がったのではないかと思いますが、草木を使った染色の話、衣にまつわる文化の話、京都の暮らし、お水取りの話、などなど伝統的技術に根ざした話題は、効率と功利優先の現代社会に対する疑問を投げかけていて、先端技術のひとつだった原発の巨大事故に見舞われ、安心安全な暮らしから無理やり切り離された人たちが大勢いる現状と重なります。

京都についても辛口な批評をしている部分が有り、特に建物と街並みの醜さに厳しいですし、売らんかなのために要らぬルールを作って来た挙げ句、衰退して来た着物業界にも手厳しいです。

その一方でよそから見たら同じ京都に見える市内でも、本当の京都と「京都に行く」と言うエリアがある話を始めとして古き京都の食住の話などは面白かったです(毎度おなじみの蛇足ですが、かつて京都の高校に通っていると見なされたのは洛北、鴨沂、紫野、堀川の四校だけだったそうで、道理で鴨沂高校となった府立第一高女に通ったと母の鼻が高かった訳です(笑))。
編集広告と言う流行の最先端を抑えなければいけなかった仕事をした人が古き日本の美しさを訴えていると言う事、考えさせられました。

(※ただし、祇園祭の長刀鉾が女性禁制だったり、相撲の土俵やある種の祭では女性は地味な下請け的な役割をするか見物人になるしかないなど、伝統を守る事が男女共働に逆行する面も有るのが、何とも複雑な気分なんですが…………)


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kaikoizumi2005 at 18:30|PermalinkComments(0)
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