2021年10月16日

★今度うまれたら

今度生まれたら
内館 牧子
講談社
2020-12-03


  最近、老眼の度合いが増したこともあるし、家庭内でもあれこれあって、本は借りても、読了できず返却というパターンが増えたのですが、この本、さすが手練れの作家が書いただけあって、ちょっと昼ご飯の前に目を通そうと思って開いた後、一気読みさせられてしまいました。

 シニアの悲哀(?)を描いた「終わった人」「すぐ死ぬんだから」に続く内館牧子さんの老年シリーズ(?)の第三弾です。

 古稀のヒロイン、夏江は団塊世代の真っただ中昭和22年生まれ(確か次義姉たちの年齢では?)。

 この時代の女性たちは、女はおとなしく、社内結婚狙いで、専業主婦として家を守り、子を育て、親を看取り・・・が当然かつ穏便なコースとして推奨されていたとあります。

 10年下の私の世代でも、クリスマスケーキに例えた女性の売れ時(失礼なこった!)が語られていましたから、ましてやでしょう。

 私世代でも、女はおとなしく、控えめがいい、とされていて、正論を言うワタシなんぞは、非モテもいいところでした。

 10上の世代だと、結婚即寿退社が当たり前。女性社員は部品であり、かつ社内結婚して、社員を支えるためのコマでもありました。なので、結婚しない女性は「出来ない」認定され「オールドミス」「行かず後家」なんて今や死語となった言葉が平然と語られてました。

 私たち世代では寿退社こそ少数派になっていたけれど、出産をしても勤続する女性は、実親がそばにいて手伝ってもらえるなど、ごく少数の恵まれた人たちだけでした。保育園に乳幼児を預ける母親は棄民のように言われた世代です。

 そこそこ優秀で、高校の教師からも、手に職がないばかりに嫁いびりの苦労をしなくてはだった母親からも、手に職をつけろと、当時の親としては破格の助言を受けながら、むしろ、時代が求める都合のいい女性をひたすら目指し、心にもない事を言うなど猫100匹かぶって、エリートと目された社内の憧れの君だった夫の心を射止めて幾歳月・・・夏江の心にはいま、これで良かったのかという思いが広がるばかり。

 順調そのもののエリートコースを進んでいた夫はある日の出来事で左遷、夏江の思い描いていた人生から外れてしまうものの、子どもたちは順調に育っているから、まあまあと思い込もうとしつつも、趣味に生きるしかないのか、古稀になると、と心穏やかではない日々。

 夫はケチで少しの出費も惜しむし、本当に冴えない日々。

 思えば、いくつかのターニングポイントがあって、担任や母親の助言だったり、社内で自分に心を寄せてくれた高卒の男性を振ってしまった事だったり・・・と回想。

 1歳違いの仲の良い姉は、夏江から見たら下流の暮らしを夫婦仲よく営んでいて、内心、それでいいのかと思うところはあるものの、懸命な夏江はそこは指摘しない。

 とはいえ、色々な曲折を得て、彼らのような夫婦もいいのではと思い始めたところ、思わぬどんでん返しが待っていたりするのですが・・


 読んでいて、非常に身につまされました。

 年齢こそ上だけど、今の自分も夏江同様の忸怩たる思いがあります。

 時代や周囲から強いられたという面は否めないけれど、大した抵抗もせず、当時のスタンダードとなっていた、結婚、出産、専業主婦というコースを通ってしまって、じゃあ、今の自分に何が残ってる?というのは夏江と同じ。

 しかも夏江には孫がいるけれど、私には孫もいませんし、夏江が憧れた同年の弁護士、高梨が言う、断捨離とエンディングノートばかりの余生はいかがなものか、というまさにいかがなもの状態にはまっている最中でして・・・

 さらに、夏江のように夫にほれ込んで手練手管を駆使して結婚まで漕ぎづけたわけではなく、いわば非モテ同士が当時の皆婚時代の風潮に乗らされて一緒になっただけ。

 一緒に暮らせば愛情が湧くんだから、との周囲の無責任な言葉とは真逆に、一緒に過ごす程にめんどくさい存在になっているのですから、自分は何も成さず、あとは死ぬだけなのか、という空しい思いは夏江より強いです。

  読んでいる間は痛快でしたが、夏江のように、これからの方向性が見えてきている訳じゃないので、夏江の言うところの高梨をはじめとするシニアライフを語っている識者の話と同じで、実際にはものの役に立たない、きれいごとではあるのです。

 やはり自分で考え、動くしかない。

 今はもろもろ気力が湧きません。だから、やる事がそれがエンディングノートや断捨離、生前整理でもいんでねぇ?と開き直っています。

 自分の死後、後始末をする人を極力苦しませないというのも、極小社会貢献です。


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kaikoizumi2005 at 15:41│Comments(0) 小説・物語 

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