2020年10月11日

★おちび

おちび
エドワード・ケアリー
東京創元社
2019-11-29



  彫刻家・画家でもあるという作家が、本人が描いたという事で、ちょっとおどろおどろしいイラストもたくさん添えて、フランス革命勃発前からナポレオンの登場後まで生きたおちび、ことマダム・タッソーの前半生を活写しているので、小説なんだか、人物伝なんだか微妙なところではある。


  ベルサイユのばらに夢中になったおかげで、フランス革命史などの本も少々読んでいたから、崇高な志で始まったはずの革命が、途中から大っぴらな殺人収奪へと変調して行って、惨憺たる有様になったのを知っているので、おちびが直面した騒乱、そのときに見たもののえぐい描写にも、ある程度覚悟が出来ていたが、何も予備知識がなかったら、うげ!となったかも知れない。

 ベルサイユ宮殿の見学をしたときに、王の寝室とか王妃の寝室はあるのだが、ほかの部屋はがらんとしているのはなぜか・・・見学コースにするためと思っていたけれど、下僕はお気に入りであればあるほど、棚の中で寝て、即呼び出しに応じなくてはいけないからだと今更知った。

 とにかく人権感覚はいまよりずっとひどくて、階級も固定されていたので、低い階級に生まれたら、一生下働きとして浮かぶ瀬がなかった。今、時代をそういう風に巻き戻したい動きがあって、とても心配である。

  話を戻して・・・最下層の貧しいみなしごとして、無給でこき使われ続けたおちびが、ギロチンの順番を待つ間に出会ったことから運をつかんでいく下りなど、後半は子ども時代には摘み取られていた彼女の才覚による実りを収穫していく下りになって、やっとホッとするというか・・・

  花の都パリの汚らしい不衛生な状態は、レミゼラブルなどでも描かれているが、革命の血をさんざん流した末に得られたもの。だからフランス人は自由を尊ぶというのに納得がいくのだが、その流血の惨事に比べたら、日本の明治維新はまだしも大人しめだったように思う。

  軍部(=武士)とその周辺だけで流血し、庶民は廃仏毀釈でうっぷん晴らしをして、フランスの暴徒がしていたような貴族の首を切る代わりにしていたようだ。

 というのはイギリスに渡ってマダム・タッソーとして功成り名遂げた彼女には関係のないことになっていただろうけれど。

 自分がマダム・タッソーの蝋人形館を見たのは、アメリカの西海岸だと思っていたのだが、ロンドンだったのだろうか? 彼女が手掛けたというルイ16世とマリーアントワネットのデスマスクの、巨頭と小顔のあまりのサイズ感の違いに驚いた記憶だけが鮮明である。

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kaikoizumi2005 at 23:59│Comments(0) 小説・物語 | 自叙伝・人物評伝等

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