2018年01月12日

★カシス川

カシス川
荻野 アンナ
文藝春秋
2017-10-05



  ほぼ私小説と思われる作家である娘と、抽象絵画の画家である母との、一卵性母子状態での、介護、自らの大腸がんとの闘病の日常を描いた作品。

  華やかな容貌、慶応大学の教授という地位にある著者を、羨ましい人の一人として見ていたけれど、母によって結婚を阻止され(それをはねのけるだけの強さがなかったというべきなのか)、子どもを持ちたかった願望を果たせず、愛した人は壮絶な食道がんで喪い、老年に差し掛かった女性の、体力気力共にきつい日々を描いており、下手をするとドロドロ、また介護や自らの病状などは、汚くて惨憺たる描写になりそうなところを、詩的だけれど的確な表現や、時として織り交ぜるユーモアで、読ませてしまう作品。

 純文学ならではのだいごや味でしょうか。

 若い時なら、血沸き肉躍る冒険もなければ、謎やどんでん返しもない日常を描いた作品に惹かれる事はなくて、あるいは最初のところを読んで閉じてしまったかもですが、闘病はしていないものの、親世代から上の家族と、ガンや老衰で別れた身としては、うなずきながら読めました。

 著者は母親存命中から(私のように母が60代半ばで亡くなったのではなくて、著者自身が60代になっているというのが大きいですが)、母親にからめとられてしまった部分をはっきり自覚して、徒歩5分の距離の仕事場に逃げつつ、結局、絡めとられている日常を描いていますが、私の場合、絡めとられていると気付いたのは、死に別れてずいぶん経ってからでした。 それが良かったのか悪かったのか。今も存命なら、未だに絡み取られているのに気づいていないのか、それとも著者のように葛藤を抱えながら生きているのか・・・そんな事も考えさせられました。

 とにかく、一つ間違うと、単なる不平不満を暗く書き散らすだけになる内容を、読ませる著者の客観性とと筆力に感心しました。 自分も、ようやくそういうことが分かる年になったのかとも思いますね。(^-^)

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kaikoizumi2005 at 23:59│Comments(0) 小説・物語 

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