2013年09月15日

□ポラロイド伝説

携帯の打ち込みで、ぽらと入れたら、ポラロイドと出て来る程の著名な製品、今は寡聞なインスタントカメラのパイオニア、ポラロイド社の伝記です。

私の生後直ぐの記念写真はモノクロでした。カラー写真は小学生時代はまだまだ贅沢品に近く、色も不安定、アルバムに貼ってしばらくすると退色しました。

ところが、母の幼少の頃は、写真館でポーズをとったまま、じーっと待たなくてはいけなかったそうです。

比較的富裕な家に生まれた祖母の子ども時代の写真は何枚か見ましたが、貧しい農家に生まれた祖父の写真は一枚だけ見た記憶があります。

そんな具合で、写真のハードルは庶民には決して低くくはなく、撮影から出来上がりまでの時間が掛かっていたので、初めてポラロイド写真を撮ってもらった時には、これが話に聞いていたあれか、とワクワクしたのを思い出します。

あれは、何十年前だったのか。独身時代だったのは間違いありませんが、十代の終わりころだったのでしょうか?

両親の若い頃にカメラを持っている人は、暮らし向きに余裕のある、ちょっとした趣味人だったように、私が若い頃はカメラこそ一般的になっていましたが、ポラロイドを持っているのは、小金持ちの酔狂(失礼!)、又は仕事上で必要な場合のようでした。

ポラロイド写真は、パーティーとかイベントに登場し、その時間内に出来上がった写真を見られる事で、大いに場を盛り上げてくれました。長男が中学生くらいに誕生日に外食をすると、特典としてインスタント写真をくれたのが、私の記憶ではポラロイド、或いは類似の技術による写真との最後の出会いでした。

この本では、ポラロイド社の創業者のエドウィン・ランドを中心に、若くエネルギッシュな創業時、アーティストらの助けも得て、破竹の勢いで商品が普及して行った時期、成熟した企業が失速、消滅して行くまでを、企業という生き物の人生を描くように追っています。

エドウィン・ランドという人は、スティーブ・ジョブスやザッカーバーグなどの、新鮮なアイデアを実現したり、世間を驚かせたりするカリスマ性のある創業者たちの大先輩でした。

撮った写真をその場で見られるようにして、まさしく、先ほど私が書いたように、写真をコミュニケーションツールとして、新しいタイプの芸術にも寄与しました。本書には、初期の記念すべき実験的写真やコダックによる競合品とポラロイド機の写真、芸術家によるポラロイド写真も豊富に使われていて、本文の面白さに花を添えて、なおさら興味深く読めました。

理科系音痴の私には、技術的説明の部分は熟読不能で流し読みになりましたが、より完全な画像を求め、邁進するエドウィンとスタッフの熱気は伝わって来ました。

この夏に公開された映画「戦場のエンペラー」にも描かれていましたが、日本が敗戦した当時、日米の経済格差にはものすごい開きがあり、食うや食わずが続いていた1940年後半には、インスタント写真が発売されていたのです。

高度経済成長期は、日本はアメリカより三十年は遅れていると言われていたのを、何とか追い付こうと頑張っていた時期で、私がポラロイド写真の実物と出会って、ちょっと感動した時期は、ようやく追い付いたぞ、分野によってはこっちが上だぞ〜、と言えた頃だったかと思います。

ですが、その頃には、成熟したポラロイド社が破綻に向かうのが近づいていたとは、想像もつきませんでした。

デジタルカメラの出現のためかと思いましたが、大きくなりすぎた企業にありがちな設備投資に人件費が経営を圧迫、そこに小企業時代の理想主義に突っ走る経営陣の見誤りなどが重なって、破綻の縁に達したようです。最初は友好的だったコダックとの訴訟問題も起こりますし、日本のカメラの台頭も述べられていますが、次第に惨憺たることになり、いわば食い物にされて、最後は二束三文になります。

実はポラロイド社はいい線も狙える研究をしていたのですが、フレッシュでパワフルな創業時の勢いが失われ、最悪の結果を招いてしまいます。

私もポラロイド社の破綻のニュースを知った時には、親しみを感じた事が無かった日本の幾つかの金融機関の破綻よりも、ずっと驚きました。

しかし、アメリカでは、ポラロイドの消滅を阻止したい人たちも多く、デジタル時代のゆとりの無さに対する懐疑からも、ノスタルジックなアナログ回帰の動きがあり、かつて万単位の社員を有し、立派な研究者を抱えていたポラロイド社は、町工場的な小さな会社として、ちょうど命を終えた大木のひこばえのように再生しました。

日本でも、かつて栄華を誇ったメーカーが苦境に陥っている例は寡聞ではありませんが、大企業がいつまでも大企業で有り続ける難しさを感じさせてくれる本でした。


kaikoizumi2005 at 19:09│Comments(2) 携帯からの投稿 

この記事へのコメント

1. Posted by 東薬師記   2013年11月08日 20:45
3
ポラロイドカメラ
、懐かしいです。
一時期、流行った
りしましたが、今
思えば、すぐに写真
が出てくる所は
画期的で、新鮮
でしたね。(ここ
まで書いてしまう
と、年齢がばれます
が)
2. Posted by 甲斐小泉   2013年11月11日 00:56
東薬師さん、こんばんは。

コメントありがとうございます。

若い子向けにインスタントカメラがまた売れているそうですね。レトロ感覚という感じなのでしょうね。

最近は携帯のカメラで済ますようになってしまって、本当に写真のハードルが低くなりました。

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