2013年07月01日

★銀色の絆



 フィギュアスケートが好きです。ですが、この物語の主人公の小織の母親、梨津子の登場したての姿のように、何がなんだか分からないで美しいから見ています。

 冒頭、小織・梨津子親子はたまプラーザに暮らしています。私がかつて住んでいた頃はごく庶民的な町でしたが、今は街となり、140平米を越える億ション住まいの梨津子は富裕層の人。新横浜スケートセンターへBMWで娘を送迎し、居合わせるほかのスケーターの似たような境遇の母親たちとささやかな張り合いをして過ごしています。

 それが夫の不倫により離婚。実家のある名古屋に転居。名古屋といえば、フィギュア王国と呼ばれていて、小織も世界レベルのコーチの下でレッスンを開始します。

 ここで語られるレッスン風景は、取材を重ねてのこと。技術的なことはもとより、特にコーチを取り巻く人間関係や謝礼のことなど、やはり富裕層か才能に恵まれていてスポンサーがつかないと、とてもやっていけない世界だと分かります。月のかかりが30万円を越えるなんて・・・・ふっへ〜、我が家の1ヶ月の生活費は30万ありゃ十分じゃん!と驚きます。

 コーチに対するお弁当つくりやコーヒー当番や、コーチの弟子たちに対する対応などなど、もちろん、現実そのままではなく作家が相当加工しているものとは思われますが、似たような状態はあるということなのでしょう。

 幸いなのは、母親同士も、生徒同士も、いわゆるいじめやいやらしい駆け引きがないということ。そこをどろどろに描かれたら、多額の経費もあって、本当にいやらしい救いのない作品になってしまうと思われますが、多少の駆け引きはあっても、基本的に皆さん「金持ちけんかせず」の世界。

 しかし、当てにしていた月額50万円の養育費が振り込まれずに連絡を取った元夫は会社を潰して、抵当に梨津子が乗ってきたBMWも取り上げられてしまうし、練習の経費を捻出するためには、梨津子は名古屋で買った見栄えのよいマンションも手放し、車も国産のコンパクトカーにして、経済的に決して楽ではないと周囲にも漏らすなど、いわゆる無駄な見栄を張らず、好感が持てます。

 特定のモデルはいないとは巻末に書いてありますが、浅田真央さんを髣髴とさせるような小織のあこがれの選手、希和が登場。本書が刊行されたのが2011年11月ですから、著者が執筆していたのはもっと早くということになりますが、希和ちゃんのお母さんが亡くなった場面を読むと、まるで真央さんの不幸を予知していたかのようで、驚きます。だからこそ、読者は余計に希和ちゃんに真央さんを重ねてしまうとは思いますが・・・。

 スポーツ選手が大成するのには、親の力がとても大きいというのは、ことに最近のスポーツ界を見ていて思いますが、フィギュアスケートは本当に親掛かりの世界だということがよく分かります。

 去年、今年と、国体のフィギュアの一部を観戦しましたが、北海道や長野県と言った寒冷地からの出場があるのは当然として、愛媛県のような温暖で、なおかつ、大変失礼ながら、岡山県のような著名選手を出していない地域からも出場があります。ところが、寒冷地を擁する山梨県からは出場していない。たぶん、甲州商人を輩出したエリアであるから、元が取れないことはしないのだろうと想像していましたが、ここまで親掛かりだと、富裕県だったり、条件に恵まれていないと、とてもではないが選手育成もままならぬと納得しました(山梨県は過去に、今のフィギュアブームの先駆者となった佐野稔選手を産してはいますが)。

 国体でも、これが最後という選手が毎年出てきますが、日本でもトップクラスに入れる選手はほんの一握り。多くがそれ以前にフィギュアスケートと別れを告げる厳しい世界で、才能と努力に周囲のバックアップがないとどうにもならない世界だというのがよく分かります。

 小織はトップに近づきながら、結局、その世界を去りますが、母子ともどもさわやかな読後感を残してくれます。

 実は本当の主人公は小織ではなくて、梨津子さんだったのですね。

 これを読んだので、本書に寄れば選手のお小遣い稼ぎというアイスショーを見るのがまた楽しみになりました。

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kaikoizumi2005 at 22:42│Comments(0) 小説・物語 

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