2013年06月22日

□神様にほめられる生き方



 本が好き!の献本です。

 タイトルと概要から、現在の、右傾化傾向に便乗した本かと、誠に失礼ながらうがった見かたをしておりました。

 が、本書を開いて見ると、それは全くの思い違いでした。歴史を知らず妙な事を言う誤った愛国主義ではなく、長年にわたる伝統によってはぐくまれた生き方を説いているのです。

 著者は春日大社の権宮司という立派な方ですが、関西弁のひょうひょうとした会話も挟んで、堅苦しくなく、しかし、背筋ピンと日本古来の伝統や、それに基づく考え方を述べています。ところどころに挟まれた写真も、普段目にする事のない、神様を描いた掛け軸に顔を隠す白紙を覆った様子や、床の間のしつらえなど、なかなか興味深いです。

 男女の役割分担や、子どもを持って一人前というようなくだりに関しては、おおまかにざっくりというところで、個別に見ると、著者の言う男性、女性の性格に合わない人もいるでしょうし、欲しくても子どもを授からない、あるいは色々な考えから結婚しなかったり、子どもを持たない人生を選ぶ方たちには当てはまらない部分ですが、一般的にはそういうものだというところでしょうか。

 戦前の国家神道や、戦後の反動主義は、例えば、上述の男女の役割や家庭のあり方などを強調したり、神道の中で自分たちにとって都合の良いところだけを取って、国民を戦争に駆り立てたり、そうしようとしているのですから、神様にほめられるような生き方かたから外れていると思います。もしも、みんなが神道の正しいあり方を知っていたら、あるいはあそこまでの悲惨な目に遭わずに済んだのかも知れないと思わされますし、これから、同じ轍を踏まないで済ませることが出来るのではと思います。

 あらまほしき生き方を説くと共に、歴史的なうんちくなどもちょこちょこ書かれていて、なかなか興味深いです。

 例えば、現代では一見して無駄、不合理に思われる習慣も、先祖の試行錯誤の末に紡ぎだされたものと、説明してくれる部分はなるほどと思わされるものがあります。一例として、家の新築に当たっての神事の数々は、瑞気と呼ばれるいい気分を新しい家に取りこむためのもの。喜ばしい気持ちをみんなで分かち合う意味合いがあったと言われれば、屋根から餅を撒いたり、職人さんたちにご祝儀や飲食をふるまったりするのは、家を建てられる程の分限者にとっての、一種のノーブリスオブリージェだったのかも知れません。

 また、伊勢神宮の式年遷宮のように、春日大社でも20年に一度式年造替という行事がありますが、それは、20年に一度ならば、三代に渡る年代の職人が携わって、技の伝承が行えるからと言う話には、頷かされました。私も著者に疑問を投げかけた人同様に、もったいないとか、なぜ20年ごとに建て替えるのかと思っていた人間ですが、神様に新しい清浄なお住まいを提供する意味以上に、人材育成の意味合いがあったとは、深い知恵に驚かされました。

 章ごとに、1ページに大きくポイントを書き出してあるのですが、技の伝承は「人造り」。せっかくの技術があっても、後継者が育たなければ廃れてしまう。人材育成は一朝一夕にはできないのだから、絶やさない努力が必要、という言葉は、現代の経営者にこそ、ぜひ取り入れて欲しいと思いました。

 また、若い頃、祖母から、嫌な事を言うなとか、言葉は惜しんで使えと言われ、若干反発を感じましたが、この本にも、言葉は過ぎるべからず。というポイントが書かれています。言葉は大きな影響力を持つ。たった一言の不用意な言葉が、大きな問題を招くこともある。反対に、人を伸ばすためには、ほめ言葉が大切。とあります。

 年を重ねて行くごとに、言葉が大事、言霊という言葉があるが、その通りと思うようになりました。

 果たして、この本を若いころに手に取っていたら、どうだったのか? 私の若いころは、戦前の国家神道バリバリで陥った不幸や、欲しがりません勝つまではの過剰な精神主義の反動から、日本古来の諸物が軽んじられていた時代ですから、古臭いとか言って反発ばかりだったのか、それとも、早くに良いものに気付いて、今よりもっと良い生きざまに結びついていたのか・・・人は二つの人生を生きられないから分かりませんが、人生半ばを過ぎて、手に取ると、頷ける部分が多いです。

 基本的には保守的な内容ですから、生まじめな若い人が読んで、自らをこうあるべしと言う枠に押し込んでしまわないようにと思う部分もありますが、一方で、基本を外してやりたい放題、金が全てと思いこむ人たちには、一読して、日本古来のモデストな生き方を再考して欲しいと思わせてくれる本でした。

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kaikoizumi2005 at 21:44│Comments(0) 人生訓・生き方のヒント等 | 歴史・地域情報

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