2011年08月03日

△トンボソのおひめさま

市民図書の廃棄本、自由にお持ちくださいの箱から頂戴した本は、子どもの頃から図書室や、岩波の子どもの本の紹介文で目にして、読んでみたかったのに、なぜかご縁が無かった本でした。

翻訳ものの児童文学の導入に於いて、多大な貢献をされた石井桃子さんのゆったりした訳文が素敵です。

カナダに移住したフランス系の人びとの間に語り継がれてきた物語だそうで、八編納められていた原作から、ページの都合で五編を選ばざるを得なかったのが残念と巻末に書いておられますが、本書が発行された1963年頃には、まだまだ児童書は抄訳だったり、オリジナルから残虐性を抜くべくストーリーの細部を改変していた時代ですから、本編の数を減らそうとも、原作に忠実な岩波の本は、当時の児童書の中では抜きんでいたと思います。

英連邦に属し、硬貨にエリザベス二世の肖像を刻んでいるとは言え、実態は王様のいない国であるカナダで(それを言ったら、徹頭徹尾民主国家をうたうアメリカの、ディズニーアニメは近年まで殆どお姫様モノですが)、移民たちが好んで語り伝えたのは、いずれも王国のお話ばかり。

主人公は王子だったり、庶民でも、知恵と勇気のおかげでお姫様の愛を勝ち得たりしています。

その中で、舞台は王国ながら、異色作はタイトルのトンボソのおひめさまでしょう。

ここでは、美しいけれど、性格が良いとは言えない、あるいはずる賢いお姫様が、自分の美貌にのぼせた他国の王子を一度ならず三度も騙し、とうとう、学習したおマヌケ王子の逆襲を受けます。さんざん騙された後のおマヌケ王子は賢くなったと言うより、お姫様並みにずる賢く、なおかつ冷淡です。傲慢は報いを受けると言う教訓を含んでいるのでしょうし、パッと見の描写は残酷さを含んでいませんが、実はかなり残酷なオチです。

他の話が紆余曲折を経て、ハッピーエンドになるのと違い、主人公の王子にはハッピーエンドでも、トンボソのおひめさまにはビターな話。

こういうのも民話の面白みでしょう。

オリジナルを使用しているらしいイラストもなかなか魅力的で、子どもの頃に母におとぎ話を読んでもらい、ワクワクしたのを久しぶりに思い出しました。


kaikoizumi2005 at 20:55│Comments(0) 携帯からの投稿 | 絵本・児童書・ヤングアダルト

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