2011年02月14日

★歌うクジラ(上)



 村上龍の近未来小説。

 「半島を出よ」が非常にリアリティのある筋運びだったのと対照的に、こちらはSF仕立てです。

 タナカアキラと言われる新出島出身の少年が、クチチュという毒液を出す種類の端正な顔立ちのサブロウさんと一緒に島を出て、今の世の中の指導的立場だと言われるヨシマツを探しに行くという冒険譚。

 しかし、まぁ・・・・なかなか凄まじい場面が多いです。島を脱出する時に殺戮、してから殺戮。

 それ以前に、新出島というのが、長崎のあの出島を模して作られている地域ではあるけれど、社会の底辺の人間だけを集めて作られている場所であり、そこでの処刑はテロメア切断による、1日が15年という急激な老化であると語られます。

 一方で、本土のどこかにあるハイソサエティの人たちは不老長寿の秘密を得て(その秘密が得られたのは、2022年のクリスマスイブにハワイの海底で発見されたグレゴリオ聖歌を歌うクジラから・・というのがタイトルになっています)優雅に暮らし、新出島の子どもを買春するのです。

 アキラもサツキという年齢不詳の、しかし、恐らくは老女に買われて性的関係をもたされた旨が繰り返し出て来ます。


 冒険譚なので、やっとの思いで本土に出たアキラが出会う人たち、途中で会ったアンという女性や、その仲間、そして、サルと人の混血だと自称する飛行家の女や、怪しい中国人等々、様々な人物と絡みます。

 ジョージ・オーウェルの1984年にも似た、というか、より悲惨さを目に見える形にした監視社会(チップが体内に埋め込まれます)、そして格差は無いという事にするための、より酷い格差社会などを描き、ひとつ間違うと、トンでもない方向に行きそうな現代のありようについて考えさせてくれます。
 
 それと共に、言葉の問題(反逆移民の子孫が、わざと助詞を間違えて話す語法など)にも触れられ、言葉を使う事が生業である作家ならではの発想と思わされました。

kaikoizumi2005 at 12:00│Comments(0) 小説・物語 

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