2010年03月18日

□バレンタインは雪あそび


バレンタインは雪あそび
  • レスリー・メイヤー
  • 東京創元社
  • 987円
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書評


 本が好き!の献本です。

 本が好き!に登録した初期から面白く読んでいるレスリー・メイヤーのルーシーシリーズの第五弾。

 アメリカ東部のティンカーズコープという町に住むルーシー。修復専門の大工である思いやりのある夫と、4人もの子どもたちと暮らしている良き母、チャーミングな妻である女性ですが、事件が起こると、ついつい首を突っ込んでしまうミステリー好き。

 今回は町の公立図書館の理事として着任の日から物語が始まります。

 何と、着任早々から事件に巻き込まれ、事もあろうに、司書の女性の遺体とご対面。以前、彼女のお手柄を知っているはずのホロヴィッツという著名ピアニストと同じ苗字の警部補からは冗談かとは思うものの、最重要容疑者呼ばわりされる始末。しかも、事件に首をつっこまないように念を押されてしまいます。

 が、そんな事でひるむ彼女ではなく、これは捜査ではないわ、友人として振舞っているのだわ、理事として当然、などと言い訳を重ねながら、次第に事件の核心に迫っていきます。

 理事の中でも軋轢がある様子が描かれ、次に犠牲となった男性は愛する男性と穏やかな暮しを営んでいた高級アンティーク店主の男性。図書館の記念すべき品、タンカード(日本人にはなじみ薄いけれど、ふたつきマグの事らしいです)を盗んだという濡れ衣を着せられての事でした。

 そのうちにルーシーの身の回りにもぞっとするような事が次々に起こり、彼女自身のみならず、家族が危うい事態に陥ったりします。

 今回のお話では、今まではルーシーの相棒的に登場する事が多かったバーニー・カルペッパー巡査があまり活躍せず、代わりに4歳となった三女ゾーイを預かってくれる女友だちや、図書館理事の面々にページを多く割いています。バーニーの活躍を期待した向きにはちょっと肩透かしかも知れませんね。

 物語は思ったほど意外性がない結末を迎えますが、印象的だったのはアメリカの中流層の多く住む伝統的な東部の町と、アメリカの良き主婦の世界の描写でした。

 翻訳作品という事で、書かれてからの歳月の隔たりがあり、電話回線でつなぐコンピューターやポケットベルなどに古さを感じますが、一方で、良き雰囲気を讃えている町の中に既にかなりの貧富の差が生じているのは今に通じる予兆のようであります。

 育ちゆく子どもたちに目配りしつつ、町の人たちとも上手に付き合い、さらにボランティアに仕事・・・ルーシーは色々な事を上手にこなしているようですが、それにはウィットと思いやりで愛情を確認しあえる夫、ビルの存在と、日本の主婦のこなす家事と比べると、簡単そうに思える記述しかない料理をはじめとする家事時間の少なさが多いに寄与していそうで、我彼の違いをふか〜く感じました。

 このシリーズの良さは度肝を抜く仕掛や、大どんでん返しと言ったストーリーの奇抜さより、ルーシーのあたたかい心が滲み出ている一方で、子育てで悩んだりと言った親しみの感じられる非スーパー主婦ぶりが描かれて共感が持てるし、失われつつある、良きアメリカ人の堅実さを感じさせてくれるコージーさにあると私は思います。

 読んでいて、母がよく語ってくれた「お世辞にも経済的に豊かではない下士官の家なのに、子どもたちは少ない持ち数の服をきちんと着こなし、質素ながら素敵に暮し、美味しい料理を作っていた実にいいご家族」だったと言う、かつて横須賀のアメリカ海軍ベースからはみ出たジモピー居住区に建っていたカマボコ兵舎に住んでいたという、私は会ったことの無いアメリカ兵一家の事を思い浮かべてしまいました。

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kaikoizumi2005 at 22:24│Comments(0) 小説・物語 

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