2010年03月13日

□蔵書まるごと消失事件


蔵書まるごと消失事件
  • イアン・サンソム
  • 東京創元社
  • 1260円
Amazonで購入
書評


 本が好き!の献本です。

 主人公イスラエル・アームストロングは司書資格を持ち、アイルランドの片田舎の図書館司書のポストに迎えられたために、ロンドンから颯爽と・・・・

 というはずが、ご本人のイケテない容貌はともかくとして、訪れた図書館は閉館。代わりに移動図書の責任者に任命されたものの、移動図書の自動車はおんぼろ、運転手の男は粗暴そう。そして、何と、書籍が全く無い。15000冊程が「盗まれている」と発見して、イスラエルは唖然とします。

 イスラエルの上司に当たる中国系のリンダ女史はいつでも食べ物を口に入れてるだらしな系のキャラだし、イスラエルの下宿先になった部屋には鶏が住み着き、その家のオーナーは時々大ボケをかます老人と孫姉弟。
 
 本を盗んだ犯人探しをしようと、好きになれないしょぼい町を移動するイスラエルの前に現れるのは、どいつもこいつも一癖も二癖もありそうな難物ばかり・・・

 というストーリー展開の中で、イスラエルの頭の中や、登場人物の会話の中に、たっぷり有名な本やその登場人物、映画などが現れ(ちゃんとカッコ内に注が書いてあるので、日本では寡聞な作品の概要も分かります)読書好きにとっては、わさびか山椒のようにピリリと効きます。

 読書好きであるが故に勝手に名探偵気分になっているイスラエルの的外れな推理と、クセモノたちに振り回される様、そして、どうやら、魅力的な職場へ行くように勧めてくれたロンドンの彼女に体よく追い払われたのでは?という懸念も感じさせつつ、物語は進んで行きます。

 ユーモアに満ちた読み手には楽しく、主人公にとっては苦々しい道行きですが、町で会う何人かの人たちはイギリスと北アイルランドの紛争によるテロで大切な人を喪っていたりします。それでも、たくましく生きている様子も描かれており、最初は嫌悪や軽蔑を感じていた町、そこに住む人々に対し、イスラエルの気持が変わっていく様子に、単なる面白おかしい物語とは違う深みが感じられます。

 それにしても、架空の町かとは思いますが、物語の舞台のタムドラムという町とアイリッシュのジモピーに対する最初のうちの容赦ない描き方は、著者が似たような風土の出身者だから許されるのだろうなと思う程辛口です。近年とみに世知辛さと非寛容の度合いを増した日本でこういう内容の作品を書いたら、大バッシングものかも・・・と思うと、こういう作品を皆が面白がって読む原作の発行国は大人の国と言えそうです。

 物語の終章を読めば分かるとおり、続編も刊行されているとの事で、早く翻訳してください!!と楽しみになりました。

 尚、イスラエルと相性が悪いのに不承不承相棒となった移動図書館用バンを隠匿(というか、保護と言うべきか)していた粗暴そうな運転手、テッド・カーソンが実にいい男で気に入りました!

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kaikoizumi2005 at 23:00│Comments(0) 小説・物語 

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