2009年08月03日
★てのひらたけ
新聞の書評を見て予約した本です。幻想的で切ないと言った評だったように思いますが、確かにそうでした。
スリラーのような味わいもあるのですが、決して後味の悪いものではなく、むしろ、端からはどんなに冴えない状況に見えても、実は本人には忘れられない幸せな思い出があったり、味気ない日々を堅実に欲張らず過ごす人に対する情が感じられたり、とてもしみじみとする不思議な短編集でした。
トゲトゲした今の時代に求められる新しいタイプの清涼感ある怪談とも呼べそうです。
表題作てのひらたけは、マジックマッシュルームと思しき秘密のキノコの存在を友人から聞いた23歳の主人公が、巡り合ったてのひらたけを口にした途端に気分が悪くなり、見知らぬ家で看病された時に出会った鄙びた娘、千鶴子との恋物語。
切ない終盤なのですが、ささやかだけど意外な、そして重要などんでん返しが魅力的。
あの坂道をのぼれば、は気の迷いから妻子を打ち捨てた病を抱えた男の懺悔録。
タンポポの花のようには、廃園となった遊園地でひっそりと亡くなった初老の英子の死を知らされ、聞いたことが無い親戚だけど、父がアパートの保証人をしていたからと仕方無く動く、ヒモみたいな夫と別れようか迷っている成美の動きと、生前の英子の生き様を絡めた作品。
身よりのない英子がなぜ園児がかぶるような黄色い帽子と共に発見されたかが分かるときにはホロリとします。
走馬灯はしがない派遣の仕事をし、酒に逃げている男の父親の思い出と現在の暮らしを描いた作品。
二作目のあの坂道をのぼればの主人公と同じ轍を踏みそうな日々を食い止めたのは…
と言うお話で、いずれも大袈裟ではなく、怖がらせようというけれんみが無い故、ひしひしと不気味で、でも不思議であたたかい気持ちになりました。
掘り出し物に出会ったと思います。
この記事へのコメント
1. Posted by BlogPetのwhite-sesami 2009年08月08日 14:09
坂道ってなに?