2009年01月30日

□プーカと最後の大王


プーカと最後の大王(ハイ・キング)
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書評/SF&ファンタジー


  本が好き!の献本。ジャンルは児童書です。

 前作の「時間のない国で」は読んでいないので、本編に登場するJJの少年時代の出来事が分かりませんが、それでも、十分に楽しめると共に、読み進むうちに改めて「時間のない国で」を読んでみたくなりました。

 本編の主役は「時間のない国で」の主役であるJJが築いた家庭の各人ですが、中でもキーパースンは二女のジェニー。途中で2、3度言及されるとおり、ジェニーは現代の基準で言うと、発達障がいの中のADHDが疑われるような集中力に欠けた少女であり、JJと妻のアイスリングにとって戸惑うことの連続で、心がつかめない存在です。おしゃれや恋に現を抜かす姉ヘイゼル、ちょっと若年寄的な雰囲気を漂わせるもの静かな弟ドナルや、第一反抗期まっさかりでイタズラし放題の末弟エイダンとは全くタイプが違い、家族の中で浮き勝ち。突然戸外に出てしまうジェニーにとって唯一の友だちと言えそうなのはプーカという変身可能な不思議な白いヤギと、近所の塚にいて、視界の片隅にちらっと現れる孤独な少年の幽霊だけ。

 ジェニーと会話の出来るプーカは幽霊を塚から去らせたがっており、ジェニーにプーカの存在を知らせるなと念を押すなど、何か不自然なところが見え隠れします。ジェニーはプーカの指示通り接しながら、幽霊の孤独も感じるようになります。

 一方、近所に住むJJたちリディ家にとって大切な隣人、死が近付いている事を自覚しているミッキー老人は余力を振り絞って塚へ上りたいと願っていて、心優しいドナルは父親が口からでまかせにヘリコプターを手配してあげると言った事を気にし、何とか彼の最後の願いをかなえてあげたいと思っているのです。

 ジェニーの正体、ジェニーが幽霊少年の気持ちに添い、プーカとの約束を守り、なおかつ、チェンジリングの事態を解決する妙案を実行するのが物語のクライマックスとなりますが、それは読んでのお楽しみ。環境破壊等の現代的な事象に対する問題提起も盛り込まれています。

 物語のベースにはアイルランドの民話があり、巻末の用語解説では、プーカも、時の無い国やそこにいる妖精も、長らく語り継がれてきた伝承のようです。じきにそのタイトルの映画が公開される「チェンジリング」(取替えっこ)という語も出て来ますが、映画のタイトルになるほどですから、結構多くあった話なのでしょう。

 ヨーロッパの一部ではあるものの、ラテン、ゲルマンと言った主流の民族ではなく、日本でもお馴染みの歌手のエンヤを擁するケルトという独特の人々が暮らし、独特の文化を抱くアイルランドは、いわばヨーロッパの遠野のような場所。その陰影を帯びた不思議さは、民話や古都、歴史すきな読者にはなじみ易いお話ではないかと思います。

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kaikoizumi2005 at 20:00│Comments(0) 小説・物語 

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