2008年10月05日

□ハロウィーンに完璧なカボチャ


ハロウィーンに完璧なカボチャ
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書評/ミステリ・サスペンス


 アメリカ東海岸の風光明媚な町、ティンカーズコーブに住むルーシー。またしても、厄介な事件に首を突っ込んでしまいます。

 歴史的建物保存地区に建つ、夫のビルが内外装の工事を引き受けた素敵な別荘で、仕事を通して知り合った感じの良い女性が焼死。犯人はティンカーズコーブにワークスタジオを開いたばかりのやり手女性と不倫関係にあったその夫か?と色めきたつルーシー。

 しかし、同時に、ティンカーズコーブでは最近立て続けに古い建物が火災で焼け、中には放火と断定されるものもあった事で、古い農家を手直しして暮らしているルーシーは、生まれたての赤ん坊ゾーイの事もあり、心配が尽きません。

 放火の犯人としては、風致地区に住んでいるためにパッとしないガソリンスタンドの再開発に待ったを掛けられたうさんくさい風情の住民も候補になるし、一方で、街の名物のバリバリワーキングウーマンだったティリー女史には老化の兆しが現れて来るし・・・

 古き時代のよきお節介気質と現代的なセンスを持ち合わせたルーシーは授乳やオムツかえをしながら、大活躍をするのであります。

・・・という事件の流れを、街の克明な描写と共に楽しめ、同じ主婦という立場から共感を得る事多々なのですが、一方で、かつては30年の差があるといわれていたアメリカと近年の日本の状態が、非常に近しいところでリンクしているなぁと思いつつ読みました。

 この本は1996年に出版されたようですが、この時点でルーシーが住む町は一般的には安全な場所の範疇に入りつつ、ハロウィーンのトリック・オア・トリートの練り歩きで子ども達が手にするお菓子に針や毒が入っている可能性を考えなくてはならなくなっており、子ども達を危険から守り、囲い込むために盛大なパーティの準備に友人のスーらと奔走しなくてはなりません。

 勿論、スクールバスが動く範囲外での子どもの行動には絶えず目を光らせる心配があり、送迎等の負担も大きそうです。洗濯や家の整頓もプレッシャーになっているよづえす。

 その分、家事の中で食の部分はどうしても適当に手を打つ状態になっている(日本人があまりに食生活に力を入れすぎているので、比較すると、どうしても手薄感があるにせよ)ようで、今の日本の子どものいる世帯の生活は、こんなアメリカの生活を直ぐ後ろから追っているように思います。

 というのは安全なはずの八ヶ岳在住の友人が、数年前に「僅か徒歩10分圏内の中学で下校時が6時を回ったら、親の出迎えが必要」というルールが出来た旨を話していたのを聞いたり、昨今の我が家の近所での不審者対策に学校やPTAが時間とお金を掛けている様子を見ていて感じるのです。我が家の子ども達が小学校に上がるくらいから、困った事に、子どもの安全をめぐる状態がぐっと悪くなり、保護者の心身の負担は増えており、もしも、ルーシーのように学齢期児童から乳児まで四人もの子どもを抱えていたら、さぞや出番が多くて、大変だろうなぁと思うのです。

 更に街に住む、いわゆる「変な人」「感じの悪い人」に対する先入観が起こす冤罪の可能性や、高齢者の暴走運転の危うさ、老いを受け入れる事の難しさなど、現実的な問題もいくつか提起していて、単なる推理小説を越えた、生活感に根ざした実直な面白さ(変な言い方ですが)がありました。

 このシリーズで手に取った最初の本では夫のビルとの間にちょっとす〜す〜する感じがありましたが、今回登場するビルは、よきアメリカンハズバンドそのもので、ご馳走様と言いたくなるほどでした(笑)。思春期に差し掛かる息子の度過ぎたいたずらなど、ちょっと心配な事も起こるけれど、よき家族に恵まれ、ルーシーはまたまた何かやらかしてくれそうで、楽しみです。

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kaikoizumi2005 at 15:13│Comments(0) 小説・物語 

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