骨董屋
2011年12月06日
★きつねのはなし
京都を舞台にした連作スリラー短編集。
いずれの作品にもきつねの面や怪しげな獣、そして一乗寺にある芳蓮堂という骨董屋が登場し、各作品ごとに主人公である若者は京都で過ごす日常生活の中に怪異を経験します。
最初の作品で、芳蓮堂のアルバイトをしている大学生は如何にも怪しげで、どうやら店主である年上の女性が嫌っている気配の客宅に出入りしていますが、それが昨年行った鷺森神社のそば、というところから一気に引き込まれてしまいました。
鷺森神社の辺りで藪を通り抜けながら、昼間で友人と二人だから良いが、ひとりで通るのは憚られるような、人ではない何者かが潜んでいそうな雰囲気でした。確かに本作の序章の舞台にはぴったりです。
未だに深泥池やどこぞの寺で何か出るとか怪異な話が好んで語られる京都ですから、どこかの路地や建物でこういう奇怪な出来事があっても不思議ではないと思わされてしまいます。
スクラップ&ビルドの激しい都市や、駅前シャッター通りが常態化した町では今も蠢く怪しい獣など生きて行かれそうもありません。
どういう経緯でそういう化け物が出来たとか言う謎解きは無しに、京都だから、そいつは存在しうるのだと読みながら納得させられる竹藪のざわめき、路地の静まり具合、折々の川の風景などが盛り込まれ、著者の分身にも思われる、知的だけど、余り覇気の感じられない若者たちが、怪異に対し挑むでもなく、闘うでもなく、するすると不思議に引き寄せられる描写には奇妙で静かな味わいがあります。
スリラーなのですが、実は京都の魅力を改めて突きつけている作品だなぁと思いました。
kaikoizumi2005 at 23:02|Permalink│Comments(2)│