2020年07月23日

△酒場の京都学

  本が好き!の献本に久しぶりに申し込みしました。

 献本のお知らせを見た時に何かピピっと来るものがあったからですが、著者略歴を見てなるほどと思いました。長野県立諏訪清陵高校のご出身。多数の人材を輩出、一例としてユニークな建築で有名な藤森照信先生の出身校でもありますが、僭越ながら、親戚の出身校でもあります。

  諏訪湖に近く山岳風景が美しい場所に生まれた人をもひきつけてやまない京都。近隣域にご縁があるだけに著者の心情が分かるような気がします。

  さて、タイトルから、酒場でちびちび飲みながら京都を語るというというグルメ系かと勘違いしましたが、幕末くらいから、京都に現れた広義の酒場の変遷を追った内容で、個人的にはその方が良かったです。
 
 主に、四条河原町を中心に1キロ四方くらいの狭い地域に盛り場として成立した木屋町や、寺町京極の裏に並ぶ店の由来や様子などが述べられています。

  以前、観光客でにぎわう鴨川の北側にある木屋町から、南側の木屋町を歩いた時に、観光客目線では京都にあってほしくない、しどけない姿の女性の写真をべたべた貼り付けた風俗営業の店が何店も並んでいるのを見てギョッとした事がありましたが、むしろそちらがオリジナルの木屋町に近いらしいということをこの本を読んで初めて知りました。

  現代の観光客目線では華やかに見える花街も、かつて大きな衰退の危機があり、あまり上品とは言えぬ事も含め、様々な手を尽くしていたことも知りました。祇園の花見小路を筆頭とする花街のあでやかな雰囲気は生き延びた人たちによる努力の結晶なのかもと思わされました。

 大衆酒場、料亭やレストランも含まれる数々の店の中で、場所は変わらず、あるいは移転して、今も営業を続けている店もありますが、半分以上は今は無い店でした。老舗として、存在し続けることは難しいのを感じさせられます。 

 ガイドブック頼りの観光客がそんな小路があるのには気づかず、例え気付いたとしても、足を踏み入れるのがためらわれるような雰囲気の場所については特に詳しく紹介されており、特に寺町京極の裏手、お寺の塀に向かい合うような形で怪しげな店が軒を連ねている時代があったという事を、そういう場所に出入りしていた文化人の記したものや、当時の地図などをもとに描いています。

 京都の酒場について詳細に記した彼らの多くは外からやって来て、長期逗留した、あるいは頻々と足を運んだ人たちで、信州に生を受けながら、京都の人となった著者と重なるものがあります。


 ありていに言えばいかがわしい雰囲気を持つ場所があってこその京都の奥深さと言われれば、好悪を越えて納得感があります。 裏も表もどこまでも明るいならば、テーマパーク的になってしまい、それはそれで良いかも知れませんが、様々な積み重ねによる古都の陰影、人を惹きつける妖しさは感じられない事と思います。

 新型コロナウィルス感染症対策として、夜の街が何かというと引き合いに出され悪者扱いされている今、この本で描かれている世界は、完全に過去のものとなるかも知れないとは思いましたが、あまたの動乱を経ても、生き延びた千年の都は、古き良きものと最先端の何かを共存させてこの危機も乗り越えて行くことと思います。



  
 (場所のイメージがしやすいように、京都駅の観光案内でかつて配布していた通り名のよくわかる大判の地図を手元に置いて読みました)

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kaikoizumi2005 at 22:36│Comments(0) 歴史・地域情報 

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