2012年08月16日

★執事とメイドの裏表

サブタイトルにイギリス文化における使用人(という語は最近ではよろしく無いようですが、他に適切な語を思いつかないので、使わさせていただきます)のイメージとあり、最近評判になったメイド喫茶や執事喫茶、辛口執事の活躍する「謎解きはディナーの後で」のベストセラーにあやかってはいるかも知れませんが、さすがは文学関係、比較的お堅い系を多く出している白水社刊だけあって、読み応えがありました。

私の中で、メイドはあまり確固としたイメージがなくて、大好きなナルニア国ものがたりで、ペベンシー家の子どもたちが、こぞって空き部屋の衣装だんすに潜り込むきっかけが、子ども嫌いの家政婦、マクレガーさんだったと言う下りと、有名なメアリーポピンズが女性の使用人てして強く印象に残っています。

一方で、執事と言えば、すぐに頭に浮かぶのが、サンダーバードのペネロープお嬢様にお仕えするパーカーです。

本書はタイトルこそ執事とメイドですが、サブタイトル通り、男女の使用人をカバーしていて、どんな家にどんな使用人がいて、それぞれの職掌はどんなだったか。どんな階級から出て来て、いつ頃まで、その制度が一般的だったかなどを、多くは文学作品を通して述べていて、なかなか面白く読めました。

最初に、あれあれと思ったのは、イギリス人の質素で豊かな生活を紹介している井形慶子さんの本で得たイメージと裏腹に、イギリスのミドルクラス以上には見栄っ張りが多いらしい事でした。

井形慶子さんの紹介していた堅実な人々は、主にワーキングクラスだったのですね〜。

ミドル〜アッパークラスでは、必要もないのに使用人を雇ってみたり、見せびらかし用の使用人がいたり………本当にイギリス人=堅実、無駄な事はしないと言うイメージが見事に裏切られました(笑)。

一般的に使用人はワーキングクラスから出て、執事は男性の出世頭(家令と言う紳士がなる事もあったトップポジションは大規模な家以外では無くなったそうで、辞書変換でも出て来ないです)。

女性の場合、ハウスキーパーが使用人の監督者と言う事で、ハウスキーパーと言う響きは執事に比べて軽々しい感じですが、実は相当な実力者だったのですね。

一方、下男と言う呼称も、日本では下働きの日陰の身を思わせる冴えない響きですが、実は結構なイケメン、見せびらかし用の存在である事も多かったようで、使用人の呼称とそのポジションには日英でずいぶんギャップがあるようです。

使用人との間のスキャンダル、若しくは恋愛も無いわけではなかったようですが、文学作品になる位だから、実はそうそうどこにでも転がっていた訳ではなさそうです。

実態は使用人同士が恋愛関係に陥りにくいよう、男女の住み分けをしたり、顔を合わさないシフトを組んだり、雇い主は苦労していたようで、そんな時に上級の使用人は監視役となり、煙たがらたり、或いは雇い主と対等な関係になってしまう例もあったようです。

一番大変なのは使用人の管理で、使用人の側からは、いかに労少なくして多く貰うか、その攻防が面白いおかしい戯れ言にもなりました。

男性使用人の中で異色なのは庭師。一種の才能を要するので、普通の男性使用人とは立場が違ったようです。

女性の使用人では、奥様付き、お嬢様付きになると、家事をこなすメイドとは違ったようですが、風と共に去りぬのマミーのような存在でしょうか。

更に乳母、ナニーはイギリス人、特に男性の精神に大きな影響を与えていたようです。

ミドル〜アッパークラスの女性は子育てをほぼ乳母任せにしていた一方、ワーキングクラス出身の乳母の庶民的味覚や、少ない語彙からの決まり文句が染み付く、など、アッパークラスから見れば、芳しくない傾向もありましたが、子どもたちは、乳母を頼りながら、どこかで乳母は自分より弱い立場とわかっていて、時に軽くばかにしながら、愛着も抱き、やがて雇い主たる親の判断による突然の別れに、深い喪失感を抱いたようです。

またまたナルニア国ものがたりの話になりますが、カスピアン王子が乳母からもとナルニアの話を聞き、憧れを抱くようになったと分かり、育ての親の叔父は世迷い事を言う、と突然乳母を回顧してしまい、カスピアンが深い悲しみに浸った事を思い出しました。

この本を読んで、イギリスの階級制度に対する知識が増え、児童向けも含み、文学作品では、しばしば使用人の言動が物語を動かすという事を知る事が出来て、一つ賢くなれた気がしました(笑)。


kaikoizumi2005 at 10:35│Comments(0) 携帯からの投稿 | 歴史・地域情報

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