2012年06月11日

★アメリカの次の覇権国はどこか?



 生まれた時から、日本はアメリカの属国でした。鬼畜米英と言って育ってきた両親は、日本が覇権国として野心満々だった時代を過ごしており、時々「ABCラインのせいで日本は追い詰められて開戦した」とか「日本のマラソンランナーがベルリンオリンピックで金メダルを取った」などと言っていたものです。

 戦争に負けたのにもかかわらず、驚異的な経済成長を遂げた日本。いえ、戦争に負けたからこそなのだそうです。



 過去の歴史で、略奪国家スペインは例外として(と著者はにべもなく切り捨てていますが、年末に見た「ブリューゲルの動く絵」という映画を見ると、スペインは非白人国でのみならず、オランダでも傍若無人に振舞っていたので、略奪国家を冠されるのももっともかと、ここでは納得)、それ以降、経済的覇権国になったオランダ、イギリス、アメリカには共通の特徴があると述べています。

 著者は経済的覇権国になるための条件として、5つの項目を提案しています。

1)資本主義が確立していること
2)経済バブルが発生し、その経済バブルが崩壊すること
3)バブル崩壊後の恐慌経済下で財政出動して、後の発展のための社会資本を整備する
4)バブル崩壊時、経済債権国であること
5)民主主義国家であること

 例えば、経済的覇権国になれなかったフランスの場合、ミシシッピーバブルというのが1720年にあったものの、当時のフランスはブルボン王朝の絶対王政下であり、近代化に後れを取って債務国であったために、覇権国になる代わりに、後日フランス革命へと突き進んでいます。

 日本の場合は、1920年代にバブルを経験していたものの、1920年の株価暴落、1923年の関東大震災、1927年の取り付け騒ぎがあり、1929年に世界大恐慌。人身売買など悲惨な状況を脱出させるべく日銀引き受けの多額の赤字国債を発行、軍備費などの財政出動を行い、経済恐慌からいち早く脱出。その後、高橋是清が高率のインフレを警戒して軍縮を行おうとしたところ、青年将校に暗殺されてしまったのが二・二六事件だったとの事です。その後、日本が泥沼の戦争に走り、民主主義とは程遠い状態になってしまいました。

  ドイツはバブルとその崩壊を経験せず、恐慌のみ。ヒトラーが総統下、財政の魔術師と呼ばれたヒャルマル・シャハトがアウトバーンなどの社会資本整備やフォルクスワーゲンの開発などの産業支援に財政出動を行い、経済回復を早期に成し遂げたものの、インフレ抑制のためにヒトラーの軍備拡張、領土拡大政策に反対したために更迭されてしまいます。その後はナチ独裁にひた走り。

  経済学とは理系だとよく聞かされた通り、この本の中にはしばしば数式を用いての説明があるのですが、そこはちんぷんかんぷんの私にも世界史、日本史を通しての説明には、なるほど!と思わされました。

 このほか色々な説明があるのですが、5章の「次の経済覇権国になる国はどこか?」では、経済覇権国になる条件を更に詳しく揚げています。それを書いてしまうとくだくだしくなるので省略して、著者は過去の覇権国、覇権国候補国の再評価の○×表を作成。その項目は先ほどと重なりますが

1)健全な通常経済
2)バブルの発生と崩壊
3)変革の経済
4)債権国
5)民主主義

で、過去ならびに現時点の覇権国のオランダ、イギリス、アメリカはちょっと怪しいのもあるけれど、全部○。ところが、日本、フランス、ドイツは×も多い、と採点しています。

 続いて、今後の覇権国候補のアメリカ、中国、日本、ドイツで表をつけてみると、な、なんとパーフェクトに○がつくのは日本だけ。その○の中で「?」がついている項目が変革の経済というところで、これは今のような不況の中での舵の切り方次第の部分です。著者の論では、不景気の時に切り詰め型経済に移行するより、大型公共投資を行った方が良いとの事(第一は震災の復興。続く道路は新設ではなく、経年劣化が酷いので、補修に専心せよとの事で、ごもっとも)。

 ここで問題になるのは・・・実は途中で著者が述べていますが、日本は覇権国家になるべきではなく、その時の覇権国と上手に付き合っていくことが必要で、今まではそれが出来ていたのに、もしも覇権国家になるのならば、世界経済を守るための政治力と、それに付随する軍備が必要と著者が書いている事です。

 う〜ん、そう来たか。

 著者は敢えて「残念ですが、日本が経済覇権国になる可能性は極めて高いのです」と書いています。別に頑張って、頑張って、その気になっているのではなくて、他の国が条件が揃わないから、押し出されてという感じでしょうか。俺はタカ派じゃない、だけど、そっちの方向へ行かざるを得ないんだと言い訳している感じがしないでもありません。

 政治力と軍備増強という重大な決断をしなくてはいけないが、この重大なテーマは「『次作』で取り扱うことにいたします」と結んでおりまして・・・何だか1回完結の2時間ドラマを見たつもりが、いつの間にか「つづく」になっていたような感じを受けました(笑)。

 核の抑止力があるから、第二次世界大戦的な戦争は起きないと著者は述べていますが、かつて来た道に戻るのは嫌だよ、二度ある事は三度あるは嫌だよというのが読み終えての感想です。

 経済(=数字)音痴の私には難しい事もありましたが、歴史的事実を並べての検証は興味深く、意外にすんなり読めました。

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kaikoizumi2005 at 23:38│Comments(0) 評論・社会事象評価 

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