2010年07月05日

★炎帝花山



 迂闊にも、はなやま天皇と読むのだと思っておりました。かざん天皇。

 はてな?どこかで見聞きした覚えがあるぞと思ったら、かつて読んだ「殴り合う貴族たち」という本に、しばしばそのお名前が登場したお方でした。

 花山天皇(その時は院)の従者が首をかき切られたり、皇女が犬に食われたり、悲惨なエピソードがらみが多く、かなり不幸なのか、それとも、かなりきな臭い匂いのする方なのか・・・その時は自分の遠祖と言われる藤原道隆の子どもらのあまりの非理知的なあほんだらぶりに呆れて、それ以上考えませんでした。その花山天皇を主人公としたのがこの小説です。


 統合失調症か何かの精神的障害を負っているのではないかと思われる物狂いの帝と言われた冷泉帝の子どもとして生まれ、藤原一族の権力争いの中、皇太子となった師貞。帝の言動に悩まされて、絶えず気を張っていた母は、帝との間に姉の尊子と師貞をなしたものの、早世してしまい、祖父、藤原伊尹の屋敷で育てられます。

 冷泉帝が譲位した円融帝に姉は嫁ぐものの、不幸そうな色を漂わせ、これもまた早世してしまいます。ドッジボールのように、帝の位は藤原の外戚たちの力関係で、あっちへコロコロ、こっちへコロコロ。皇太子の師貞の番が回ってきますが、その時には権力者だった祖父も亡くなっていて、叔父にあたる義懐と、惟成くらいしか側近として頼れるものがいない状態になっています。

この2人と共に行った改革が荘園で既得権を得ていた者達の反発を食らって、雲行きが怪しい中、見初めて娶った女御に先立たれ、仏道に帰依したいという気持になっている時に、厳久という名僧源信の弟子と出会い、出家願望が強まって行きます。

 ところが、容貌が美しい厳久は、実は花山から見るとライバルである藤原一門の兼家のまわしもの。花山の出家の手配をしている間に神器を持ち出させ、兼家の孫へ譲位させることに成功させてしまいます。

 騙されて譲位させられた花山はむしろ仏の道を究めようと厳久を越える程の修行に打ち込みますが、自身を焼ききる修行に失敗した後から、だんだんアナーキーな方向へ走り出し、「殺す事で仏道を極める」と、かつてオウム真理教が言っていたような事を言い出し、紅蓮の衣をつけた妖しげな取り巻きと一緒に行動。権力におもねりながら、表向きの戒律だけはひたすら守っていた厳久をたじろがせるほど、自由闊達に粗野に動き回り、出家後にも拘わらず複数の女性と関係を持ち、子も成します。(手っ取り早く言えば、なまぐさ坊主と言う事になりそうです。もっともその頃の比叡山も相当荒れていて、紛争状態。三井寺園城寺の成り立ちも分かりました)

 その間、女性を横取りしたと勘違いされ、藤原道隆の子どもの手先に従者が首をかききられる乱暴狼藉を働かれたり、その時に孕んだ愛人の子どもである皇女が後に殺害され、犬に食われるという「殴り合う貴族たち」の悲惨なエピソードにつながる訳です。

 高位の貴族の家に生まれ望まないのに皇位に付き、出家、修行の後には破天荒に生きる帝と、高位とは無縁の下級貴族の家に生まれ、言葉の力と容貌で権力を得て行こうという僧厳久の対比が物語の軸をなしていると言えましょう。叔母でありながら、花山の妻となった理子の亡き花山への語りかけで物語は閉じられます。

 戦前だったら「不敬罪」に問われる事間違いなし。いかに古の話とはいえ、皇族や貴族のメチャクチャや恥になりそうな描写がいっぱいで、言論の自由が圧殺されてはいない世に生まれているからこそ、読める作品だと、先ず思いました。

 物語の中には、石山寺に籠りものを書く個性的な女人も登場し、僧体の花山と言葉を交わす場面がありますが、後ほど、この女性は源氏物語を書いたあの人だと分かり、摂関家藤原一族の時代と、王朝文学の位置関係も分かり興味深いものがありました。


(参考)殴り合う貴族たち




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kaikoizumi2005 at 22:00│Comments(0)TrackBack(1)小説・物語 

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1. ★殴り合う貴族たち  [ 甲斐小泉の読書ノート ]   2010年07月06日 18:57
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