2008年10月26日

□優雅なハリネズミ


優雅なハリネズミ
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書評/海外純文学


 本が好き!の献本。

 フランスの裕福な人たちが暮らすアパルトマン(日本の億ションなぞ比ではありません。ワンフロア400平米が居住スペースだったりするのです)の人生模様を、管理人として鈍重な見かけを装うマダム・ミシェルこと、ルネの目と、天才的な若年者にありがちな冷めた目で世界を見て、もう生きるに値しないと考えている少女パロマの目を通して描いています。

 ルネは乙に澄ました住民の多くがろくに挨拶もせず、使用人として接するのを良しとして、実は文学や美に対する造詣が深いのを隠し、俗悪なテレビを見て居眠りをする管理人のふりをします。パロマは俗悪そのものの家族にうんざりしながら、密かに自分を葬る計画を練っています。

 二人の人生が変わり、そして交差するのは、5階に住んでいた料理批評家のアルサン氏の死去に伴い住民が入れ替わって、物静かな日本人、オヅ氏が引っ越して来てから。

 この作品を読んで、迂闊にも驚いたのは、自由、平等、博愛を唱えるフランス革命を経た国に根強く残る階級社会。(先日見た「シッコ」では「政府が国民を恐れているから暮らし向きが良い」と語るアメリカ人達が映っていましたが)確かに、貴族の称号であるドが未だに残っている事は知っていましたが、イギリスと同じように、ブルジョア層と庶民層がパッツリと割れて、同じ町に暮らしていても相手を全く見ていない事でした。

 貧しい生まれで見かけも美しくないルネは、まんまと富裕層の思い描く、管理人像に沿った鈍重な女に化けて、管理人室を居心地の良い隠れ家としています。一方で、少女パルマは、富裕層、インテリ層の嫌らしさを見抜いて12歳にして人生に飽いています。でも、大人たちは、それに気付かず、パルマを、ちょっと気難しい、勉強の出来る、引きこもりがちな少女とだけ軽く見ています。

 そんな中、階級制度や年齢による思い込みをものともせず、ルネとパルマに実に自然に接するオヅ氏が登場し、二人の人生に思いがけない変化を与えるのです。

 親友のポルトガル移民のマニュエル以外の人たちの目に映るダサいオバサンの姿に引きこもろうとするルネをオヅ氏は軽やかに誘い出し、パルマとルネも自然に引き合い、ルネの悲しい過去、どうしてダサいオバサンの世界に生きようとするかという理由を引き出す事が出来たパルマは、自分が誰かの役に立つことを知り、生きる意欲を取り戻します。

 文字通りのハッピーエンドにはならないのが残念と言えば残念ですが、抑えた人生を送っていたルネを認めてくれる人が現れた54歳の女性のときめきが伝わって来ますし、人生を分かりすぎているように感じていた少女が自分の未熟さを知り、これから花開いて行くだろうと思わせてくれます。

 私には一度では理解しがたい哲学的で難解な文章が管理人の女性や少女の頭の中で語られますが、文章の流れが美しく、分からない事は分からないままに読み進んでも、十分に堪能出来る作品でした。

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kaikoizumi2005 at 15:59│Comments(0) 小説・物語 

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